![]() ― Hommage à k3 ― |
| 私が映画について語るなど、これが最初で最後だろう。もともと映画を観る習慣があまりなく、せいぜい話題作を年に1〜2回観るだけであるから、語るほどの知識も筆力もない。それならいったいなぜこんなページを作る気になったのか、それはひとえに、我が敬愛する映画ファンの友人k3の、この作品に対する思い入れに共感したためである。そして、作品としては駄作だの失敗だのと言われているが、この映画は幸せな偶然を私たちにいくつも運んできてくれた(そのことに関してはここで語るつもりはない)。『ミシェル・ヴァイヨン』(日本語表記が気に入らないので、タイトルはこれ以降“Michel
Vaillant”とさせていただく)は実に愛すべき記念すべき作品なのだ! 作品を観る前に、トークショー・イベントで主演男優に会ってしまったことが、すべての始まりだった。フランス人で本当にステキ!と思えた男性は、ミシェル役のサガモール・ステヴナン(Sagamore Stévenin)が初めてかも知れない。以前から彼のファンであったk3から散々聞かされてはいたものの、こんなに正統派のbeau garçonだとは!映画が面白くなかったとしても、彼が主演なら、ま、いいやと思ってしまったほどであった。 “Michel Vaillant”がフランス映画であることは、この映画に私が惹かれたひとつの理由だったかも知れない。英語よりもフランス語になじみのある私にとっては、台詞ひとつひとつのニュアンスがすんなり頭に入ってきた。また、たまたま私は長年モータースポーツを愛してきたので、作品背景に違和感をまったく覚えなかったということもある。 すでによく知られているが、この映画の原作はフランスで40年以上も愛され続けているコミックである。コミックをアニメ化した映画なら、どんなに筋が荒唐無稽でも誰も文句は言わないだろう。それが実写化されるとなぜこんなに脚本が陳腐だの、バカバカしいだのと映画評でくさされなければならないのか。アニメを観てファンタジーを感じる人が、なぜ人間が演じたものにファンタジーを感じないのか、私にはよく理解できない。悪役が登場するものの、心底憎らしい悪役ではなく、人の死を描く場面はあるものの、悲惨でやりきれないような描き方ではなく、観終ったあとは実に爽快で楽しかった。だから私は声を大にして言いたい、“Michel Vaillant”は極上のファンタジーだと! 映像の美しさは誰しも認めるところである。雪の中のラリーのシーン、荒涼とした地での埋葬のシーン、ガレージでのシルエット、高速道路を疾走する2台の青いプロトタイプカー、ル・マン24時間レースでの青と赤の対決…好きなシーンは数え上げたらきりがない。壮絶な炎上シーンでさえ、エレガントな映像に見えるのは贔屓目だろうか。そこかしこに、ああやっぱりフランス映画だなと思わせる要素が散りばめられている。 観ていない方にはネタバレになってしまうが、ル・マンでの最後のシーン、リーダー・チームのドライバーがマシンを押してゴールしようとするところは、あんなことありえるか!と、かなり不評だったようだ。しかしF1好きな人なら、フランス人のF1天才ドライバーとして名高いアラン・プロストが1986年にガス欠で止まったマシンを押してゴールを目指したエピソードを覚えているはずである。私はむしろ、ああ、あのネタを使ったんだなと即座に思ったくらいだった。オークションの場面での出品リストにも、アラン・プロストのグローブや、マニュエル・ファンジオのヘルメットなど、モータースポーツ好きにとってはいろいろ懐かしい名前が出てくる。 男女とも美しい出演者を揃えたところが、やはりファンタジーだと思わせる一要素であろう。なかでもジュリー・ウッド役のディアーヌ・クルージェ(Diane Kruger)の芯の強い美しさは特筆ものだ。泣いても笑っても怒ってもこれほど魅力的な女優さんを久しぶりに見た気がする。余談だが、彼女は最近ハリウッドの大作にもずいぶん出演しているので、いつの間にか「ダイアン・クルーガー」と表記されることが多くなってしまった。まあ、フランス語読みにすれば本当は「ディアーヌ・クリュージェ」なのだが… せっかくの機会なので、どこでも取り上げられていない話題に触れておこう。上記の私が好きなシーン、ダヴィッドの埋葬の場面だが、中央が円形になった、いっぷう変わった十字架が出てくる。あれはケルト式の十字架だ。Archiveによる映画のサウンドトラックを聞いた人なら、ケルトの曲が入っているので、気がつかれたかも知れない。亡くなったダヴィッドの名前はDavid Doughertyであり、Doughertyという名字はアイルランドのケルト民族にゆかりの名前である。原作ではこういうことが描かれているのかどうかは残念ながらわからないが、ダヴィッドは「アイルランドの石頭」とチームメイトから呼ばれるシーンもあり、アイルランド出身、つまりケルト民族の末裔という設定なのだろう。ラリーのシーンで同乗のナビの制止も聞かず、ダヴィッドが橋に突っ込んでいく場面は、何と無謀なと思えるのだが、逆境に果敢に立ち向かってゆくアイリッシュ魂か、勇壮なケルト人気質をあらわしたものと考えれば納得がゆく。熱いものを内に秘めて常に冷静な行動をとるフランス人ミシェル、ちょっと軽くて失敗もするが、明るくチームの潤滑油的存在のアメリカ人スティーヴ、様々なタイプの人間模様も見所のひとつだ。ダヴィッド埋葬の地はアイルランドか、あるいは、フランスでケルト文化が残るブルターニュ地方か、どちらも似たような断崖の景色がたくさんあるので、そこまではわからない*。ヨーロッパの映画には、古い古い歴史に裏打ちされたエピソードが何気なく盛り込まれるので、知っているのと知らないのでは、鑑賞の仕方もおのずと変わってくる。私にはとてもエキゾチックなシーンに思えたが、フランス人はどう感じるのだろうと、とても興味を惹かれたのである。 劇場公開からもう9か月もたってしまったが、先月“Michel Vaillant”のDVDが発売になり、早速手に入れて、ふたたび楽しんだ。あらたな発見もあり、k3と未だにこの映画について様々な感想をぶつけあって盛り上がっている。 肝心のサガモール・ステヴナンについては、私がここであれこれ言うまでもない。どちらかと言うと地味な役者さんではあるが、非の打ち所のない清廉なミシェル役は、この人以外には考えられないと思う。注目すべきは彼の眼差し!詳しいことを知りたい方は、k3のサイトでサガモールの魅力を堪能していただきたい。(2004.8.8) |
| *その後の調査により、ロケ地はノルマンディー地方の海辺だということが判明した(2004.11.14加筆) |