キッカイ翻訳
 ―機械翻訳の落とし穴―

オンラインの翻訳サイトは大変便利なものです。高価な辞典を買わなくても済みますし、何より単語のみではなく文章を翻訳してくれるのがありがたいですね。けれども特にフランス語に関しては、機械翻訳はよほど気をつけて利用しないと、とんでもない翻訳結果を出してくれてしまいます。まさに「奇怪翻訳」です!このコーナーでは、機械翻訳で日本語をフランス語に直す場合に陥りやすいミスと、うまく利用するポイントなどをご紹介します。

1. 日⇒仏翻訳のできるサイト
日本語から英語を経ずに直接フランス語へ翻訳できる日本語のサイトには、exite翻訳Infoseekマルチ翻訳があります。ここ数年で、翻訳精度もずいぶん上がってきました。それでも、やはり根本的に文法構造の異なる言語間の翻訳は、人間がおこなう作業にはまだまだ及びません。
私がときどき眺めにいくティーン向けの某サイトがあるのですが、そこではフランス語をたずねたり教えたりしているやりとりが見られ、機械翻訳の結果を堂々と教えてあげているケースが目立ちます。90%以上、目を覆いたくなるような「キッカイ翻訳」で、教える人もフランス語をまったく知らないのが明らかです。なぜ、機械翻訳は正しい答えを出してくれないのでしょう?
2. 機械翻訳例:「あなたが好き」
機械翻訳ではどのような結果が出るのか、上記のInfoseekのサイトで実際にやってみましょう。
「あなたが好き」をフランス語にした結果→Vous l'aimez.(あなたは彼を[彼女を]愛している)
なぜこんな結果になるかというと、日本語で「あなたが好き」といった場合、私たちには言葉の陰に「私は」という主語が隠れていることがわかりますが、機械はそんなことを理解してはくれないのです。「あなたが」を主語と判断してしまっているのですね。そして「あなたが」を主語と判断してしまったために、「誰を」(「何を」)好きなのかがわからないことになりますから、無難な「彼を」(「彼女を」)を付け足してあるのです。では少し言葉を足してみましょう。
「私はあなたが好き」をフランス語にした結果→Je vous aime.(私はあなたを愛しています)
かなり近づきました。でも機械翻訳はここが限界です。フランス語には英語のyouに当たることばが2種類あります。恋人に、あるいは恋人になってほしい人に「あなたが好き」という場合は、普通、親しい間柄で用いる「君」を使います。Je vous aime.だと、丁寧すぎるのです。正しいフランス語は、
Je t'aime.ですが、機械翻訳ではここまでたどり着くことはできません。
「愛してる」をフランス語にした結果→Je l'aime.(私は彼を[彼女を]愛してる)

誰を愛しているのかが書かれていないので、「彼を」(「彼女を」)になってしまっています。
3. 機械翻訳例:「いつまでも一緒」
Infoseekで同様にやってみました。
「いつまでも一緒」をフランス語にした結果→Je suis même comme à jamais.
訳すのが不可能なくらい滅茶苦茶な翻訳結果です。無理やり訳すと、「私はいつまでものようにでさえある」というような感じでしょうか???意味不明ですね。「一緒」で終わりにしてしまうと、機械は判断ができないのです。「一緒に」とか「一緒の」という言葉でないと、フランス語としては文章が成立しないのです。
「いつまでも一緒に」をフランス語にした結果→À jamais ensemble(いつまでも 一緒に)
「一緒に」にしたら、ほとんど正しい答えが出てきました。けれどもこれで完璧ではないのです。フランス語の語順としては、
ensemble à jamaisのほうが自然です(À jamais ensemble.という表現もないわけではありませんが)。これは、機械が「いつまでも」と「一緒に」をバラバラに解析していることを示すものですね。前後の文脈がない場合に、全体のニュアンスまで機械は把握してくれないのです。
また、フランス語らしいフランス語というところまで、機械はもちろん考えてくれません。「いつまでも一緒」は日本語としてはごく当たり前の表現ですが、恋人といつまでも一緒にいたいという願いをこめたいなら、フランス人はもっと具体的な言い方をするでしょう。
avec toi pour toujours(いつまでも君と一緒に)という具合に。日本語は曖昧さが好まれ、フランス語は明確さが好まれるという、言語観の相違がよくあらわれている例だと思います。
4. 機械翻訳例:「昨日私は新しいパソコンを買いました」
元の日本語が論理的だと、機械翻訳もかなりよい結果を出してくれます。
「昨日私は新しいパソコンを買いました」をフランス語にした結果→J'ai acheté un nouveau PC hier.(昨日私は新しいパソコンを買いました)
これは正しい結果が出てきました。今回機械は「パソコン」を「PC」と訳しましたが、フランス語では別の言い方もあります(「PC」は英語を借用しています)。un nouveau PCの代わりに、un nouvel ordinateurと言えば、正統的なフランス語になります。
5. 英⇒仏の危険
英語が間に入っている場合は、英語をきちんと理解していないと大変危険なことになります。
今度はLivedoor翻訳のサイトで英⇒仏の翻訳をやってみましょう。
「好き」は英語では普通likeと考えますので、これを使います
likeをフランス語にした結果→comme(〜のように、〜のような)
「好き」とはまったく違う言葉が出てきてしまいます。英語のlikeに「同様な、〜のような」の意味があること、しかも「好き」という意味より辞書などでは先に紹介されていることを頭においておかないと、こんなとんでもないことになります。
6. 機械翻訳をうまく使うには
まず私たちの母国語である日本語をきちんと理解することが最も大切です。そしてなるべく論理的な文章で翻訳することですね。また翻訳結果をうのみにしないで、何らかの手段で確かめることも必要です。フランス語をたびたび使いたいのなら、どうぞ仏和辞典を一冊お持ちください。機械翻訳の結果をもう一度仏和辞典で確かめてみるだけでずいぶん違います。辞典は安いものではありませんが、古本屋さんなどでも手に入ります。

2008/8/21更新


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