Re: il y a 時間の表現 (3) ( No.1 ) |
- 日時: 2007/11/15 18:26
- 名前: てふママ
- 暮津試さん、ようこそ。
まず、長文のご質問は、同じスレッド内で返信の形で分けて投稿することができます。連続投稿ですと、少し時間をあけないと(1分以上)はねられてしまうかも知れませんが、あらたにスレッドを立てなくても投稿できますよ。 長編小説ですと、引用くださった文だけでは、どうも正確な判断ができないのですが、身近に仏訳を持っておりませんので、とりあえずこの文から読み取れることのみで判断することにいたします。結論から言いますと、邦訳は正しいと思います。de celaのcelaがあらわす時点は、「学生Pに老婆の住所を聞いた時点」ではないように読めます。具体的にいうと「あの事(=これから起こる殺害)より6週間前に、彼はこの住所を思い出していたのだった」というふうに、私には取れます。 この解釈ですと、住所を思い出してから6週間後に殺害が起こることになりますが、それですと小説の時間軸と照らし合わせていかがですか?住所を思い出したから殺害を思いつき、でも、実行するまでに6週間くらいあったのではなかったでしょうか。この引用箇所以前に殺害のことが出てきたか、来なかったか覚えていませんので、微妙なのですが、出てきたのならまさに「その事」ですし、出てきていないのなら、読者には「あの事」って何だろう、これから何か起こることなのだな、という予感を与えるということになるでしょう。もうすっかり『罪と罰』の詳細など忘れてしまいましたし、手近に本が見つからないので、読まずに失礼いたします。代名詞が曖昧に思えるときに、その指示内容を特定する原則は、一にも二にも文脈です。一般にcelaは前述のことを指しますが、後述のことも指す場合があります。読者にまだ与えられていない情報を先取りして「あの事」という風に使うことも珍しくはありません。実際の小説の時間軸と、私の解釈に矛盾があれば、また考えてみますのでご指摘ください。
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Re: il y a 時間の表現 (3) ( No.2 ) |
- 日時: 2007/11/15 21:13
- 名前: 暮津試 <unfoutu@ybb.ne.jp>
- ご返信拝読。ご指摘にしたがって読み直してみますと、なるほどこの de cela は、引用文の叙述の時点の前日に行われた、いわば殺害計画の下見のことを指すのだと思い当たりました。このように読むのがいちばん文脈に沿うようです。が、引用箇所の前にはその当日のいくつかの出来事がたいへん印象深く語られており、前日の下見のことは、この場合とっさに想起されるほど前景に押し出されてはいないように感じられます。そのためか、ぼくにはこの cela の指示内容を特定するのがひどく恣意的な選択の問題に思われて、どうも困惑してしまうのです。逆にいいますと、この cela が、はじめにぼくがそう考えていたように「老婆の住所を聞いた時点」ではないと自然に判断される決め手は何なのでしょうか。たとえば、il fut longtemps sans aller chez elle の「longtemps」などがひびいて来て、文脈上、ぼくのような誤読をごく自然に防いでくれるというようなことなのでしょうか。また、ぼくの読み方は文脈に合わないのだから間違いでしょうけれど、少なくとも文脈を離れて文法的にだけ考えた場合には、そのような読解もありうるというような強弁は可能でしょうか。つまり、自分の誤読は文法的に許容されるのかどうか、そんな事はあまり意味がありませんけれど、気休めのためにも教えていただきたいのです。ぼくはフランス語を誰にも教わらずに独習しましたので、こういう箇所で引っ掛かっても、なかなか確答が得られず、そのためあまり進歩も捗々しくないのが実状です。それでもたくさんのフランス語を辞書や事典と首っ引きで読みつづけていれば、いずれはこの種の詰まらない誤読を脱し、てふママさんのように自然に正確に読むことが出来るようになるのでしょうか。
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Re: il y a 時間の表現 (3) ( No.3 ) |
- 日時: 2007/11/15 23:27
- 名前: てふママ
- 念のためですが、まず、il y avait six semaines environ de celaは「それから6週間ほどがたっていた」という独立した意味には絶対になりません。あくまでも「それ(これ)よりおよそ6週間前に」という状況補語です。これは「il y a+期間の表現」として、確定的な用法です。そして、そのあとが大過去形ですから、正確にいうと「思い出した」ではなく「(もう)思い出していたのだった」ですね。で、住所を聞く前に思い出すことはありえないわけですから、「老婆の住所を聞いた時点」ではないと判断するのは、当然のことです。おそらく暮津試さんの今回の誤読は、il y avaitの解釈に勘違いがあったためというだけのことではないでしょうか。
そして、「ところで、これ(それ)よりおよそ6週間前には、彼はこの住所を思い出していたのだった」と読んでいくと、「これ(それ)より」の「これ(それ)」が何を指すかは、フランス語としてではなく、ものの論理としてわかってくるものだと思います。この場合のcelaは、はっきり何か一事を指しているわけではなく、ちょうど日本語の「それ/これ」くらいの茫洋とした言葉なので、前日の下見だけを具体的に指すとは言えないと思います。物語で今語りつつある筋の時点を漠然と指している、くらいの解釈が丁度よさそうです(結局はそれが殺害の時点までにも拡大されるわけですが)。 独学は確かに正解がわからず、ご苦労もよくわかります。もちろん文法すべての要素が大切ではあるのですが、とくに長文のときは、時制をきっちり読み解くことと、副詞や状況補語などの細部をないがしろにしないことだと思います。
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Re: il y a 時間の表現 (3) ( No.4 ) |
- 日時: 2007/11/16 00:54
- 名前: 暮津試
- 煩瑣な質問にも懇切に対応して下さり本当にありがとうございます。il y avait six semaines environ de cela について、もう少し、いいでしょうか。il y a longtemps de cela という例文に、それ以来ずいぶん経つ、という訳文を載せている辞書があって、そこから、ほぼ同じ形の six semaines の方を、「それ/これ以来(=de cela)ほぼ6週間が経っていた」と解しました。教えて下さったように、「il y a +期間」の表現が状況補語として確定的な用法だとすると、il y a longtemps de cela は、それよりずいぶん前に、と訳さなければ間違いになるのではないのでしょうか。de cela をめぐって、cela「以来」ほぼ6週間があった、とすべきか、cela「以前」にほぼ6週間があったとすべきか、その点で混乱していたのですが、この辞書の記述にからめてもう一度解説してくださいませんか。ちなみに、de cela を成句表現として載せているぼくの辞書には、voila dix ans de cela という例文に、あれから10年たつ、という訳文をつけています。「voila +期間」は il y a のそれと同等の表現だと思いますが、そうするとこの場合、それより10年前、とすべきなのでしょうか。ぼくは以上のような辞書の記述を読んですっきりと整理しきれないまま、はじめに提出しましたような読み方をしてその誤りを覚れませんでした。さきほどのご返信を読ませていただいておおむね得心したはずなんですが、ふたたび辞書の記述を覗いてみたりすると、なんだかまだうまくのみこめていないのが自分で分かります。見当はずれな質問ばかりで恐縮ですけれど、どうかよろしくお願いします。
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Re: il y a 時間の表現 (3) ( No.5 ) |
- 日時: 2007/11/16 16:07
- 名前: てふママ
- なるほど!なぜ「それから6週間が経っていた」という風に考えられたのかなと思っていましたが、辞書の例文ですね。確かに、ロベール仏和や、ロワイヤルには、そういう訳語がありますね。それでは、訂正させてください。大変申し訳ないのですが、スレッドNo.3の私の記述はいったん無視してください。de celaの取り方を私のほうが勘違いしていたようです。
まず、辞書にあるIl y a longmteps de cela.はそれでひとつの文として完結しているので、「それ以来ずいぶん経つ」と訳すしかない。ここまではよいですね。 順を追っていきますと、辞書の例文にならえば、お尋ねの文のil y avait environ six semaines de celaは、「それからおよそ6週間が経っていた」になります。これは、cela「以来」ほぼ6週間があった、という意味です。じゃあ、celaはどの時点か、という最初の疑問に至ります。これは、住所を思い出した時点ですね。ですから、小説の邦訳の「6週間前に思い出した」というのは、時間軸と照らし合わせれば、やはり間違ってはいないと思います。物語の「今」はどういう時点かというと、「それからおよそ6週間が経った時点」だったのです。どうもなかなか日本語ではうまくいかないのですが、「(物語上の今というのは)それからおよそ6週間たった時点なのだが、(この時点では)彼はその住所を(すでに)思い出してあったのだ」と考えてみてください。日本語の論理展開からいうと、逆に、「彼はその住所を思い出した。その時点から、およそ6週間がたった(のが今という時点である)」というほうがわかりやすいのかも知れません。(続く)
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