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オーレリアンより
日時: 2009/01/21 00:18
名前: クルツ

てふママさん、こんばんは。
お久しぶりです。今年もご教授よろしくお願いいたします。

さっそくですが、教えてください。

Il venait d'avoir trente-deux ans, oui, ca les avait comptes en juin. Un grand garcon. Il ne pouvait pas tout a fait se prendre au serieux et penser : un homme.

アラゴンの小説『オーレリアン』の最初のほうの一節です。主人公オーレリアンの現在の状況を描出している箇所ですが、第一次大戦に従軍後三年が経過し、兵役にまつわる不快事から解放されて自由を得はしたけれど、さて、彼も32歳になるというくだりです。お訊きしたいのは、文中の ca に就いてです。この ca は文脈から判断しても、il=主人公オーレリアンを指示するものと思われますが、ここまで一貫して il で受けていたものを、ここでなんとなく唐突に ca が出てくることが仏語としてすっと入って来ないんです。
ふた通りの考えを出してみます。ひとつは、この ca が辞書にもあるいわゆる軽蔑や親愛の意をこめて人を指すのに用いる場合の ca だという読み方。「かれは32歳になったばかりだった。そう、やっこさんも六月で32になった。一人前ということか。じぶんが一箇の大人だなんて、かれにはとうてい真面目に考えられることじゃなかった。」という感じでしょうか。別の読みをすると、この ca は、point で切断されてはいるけれど、後出する Un grand garcon を受けるものとするという考え方。point のところに virgule を置き換えたような読み方になるかと思います。「〜そう、この背の高い青年も六月で32になった。〜」というふうに、後出の Un grand garcon をめぐって若干ニュアンスが変わるように思いますが、さて、いかがでしょうか。
ことを単純化して、かりに上記の文章が小説の文脈をはなれて目の前にあったとしますと、てふママさんならどうのようにお読みになるかということもお訊きしたいです。こんなふうに ca が使われるのは割合ふつうのことですか。point のところが virgule だとぼくも引っ掛からないんですけれど。

それでは、よろしくお願いします。


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Re: オーレリアンより ( No.1 )
日時: 2009/01/21 23:41
名前: てふママ

クルツさん、こんばんは。

素直に読んだところでは、クルツさんのひとつ目の解釈に賛成です。çaが感情的要素が入って人を指す、という用法ですね。前後がないので、よくわかりませんが、何となくこの文は、自由間接文体に近いかなと思いました。つまり著者が客観的にオーレリアンを描写しているように見せて、実のところ、32歳になったオーレリアン自身が自分の年齢に感慨を持つ、そのニュアンスが含まれているのかなと。だから、un grand garçon と言っているのではないかと。

çaが un grand garçon を先取りしていると考えるのは、無理があるような気がします。普通に順番通りに読んでいって、「彼は32歳になったばかりだった。そう、やつ(この俺)は6月にその歳になっていたのだ。un grand garçonというわけだ。自分がun homme だなんて、彼には到底本当だと思えなかったし、考えられなかった」という風に読めます。

un grand garçon と un homme を敢えて訳さなかったのは、とても訳し方が難しいですし、çaを含めて流れをつかむには、ここが最大のポイントだと思ったからです。つまりun homme(いっぱしの大人の男)だなんて、とてもじゃないが自分では思えないから、せいぜい un grand garçon(歳くった男の子?)というわけだ、と言っているのではないでしょうか。その観点からすれば、un grand garçon を「背の高い青年」と取るのはおかしいことになりますね。

çaのこういう使い方は、頻繁には見かけないですね。私も読む物が偏っていますので、たまたまあまりお目にかからなかっただけかも知れませんし、辞書や解説書の例文に載っているということは、それだけ実例があるという証しでもあるのでしょう。
Re: オーレリアンより ( No.2 )
日時: 2009/01/22 00:20
名前: クルツ

てふママさん、ご返信拝読。

とてもよく分かりました。おっしゃる通り、un grand garcon と un homme が解釈のうえでポイントなんだと思います。そう思いながら、 ca の用法の確定に迷いが出るところがじぶんでももどかしく感じています。自由間接文体に近いというご指摘も、なんとなくぼんやり理解していたあたりをぴたっと言い当てていただいたようで、すっきりしました。

いつも有益なご回答ありがとうございます。
次回もよろしくお願いいたします。


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