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entrait の用法について
日時: 2021/07/30 18:26
名前: buco

てふママ様

こんばんは。

「赤と黒」の第5章の後半に次のような一節があります。

 Une fois, au milieu de sa nouvelle piété, il y avait déjà deux ans que Julien étudiait la théologie, il fut trahi par une irruption soudaine du feu qui dévorait son âme. Ce fut chez M. Chélan, à un dîner de prêtres auquel le bon curé l’avait présenté comme un prodige d’instruction, il lui arriva de louer Napoléon avec fureur. Il se lia le bras droit contre la poitrine, prétendit s’être disloqué le bras en remuant un tronc de sapin, et le porta pendant deux mois dans cette position gênante. Après cette peine afflictive, il se pardonna. Voilà le jeune homme de dix-neuf ans, mais faible en apparence, et à qui l’on en eût tout au plus donné dix-sept, qui, portant un petit paquet sous le bras, entrait dans la magnifique église de Verrières.
 Il la(=l’ église) trouva sombre et solitaire.


半過去entrait の用法(下から3行目: entrait dans la magnifique église de Verrières)は、「語りの半過去」と呼ばれる用法のうち、「絵画的半過去」に該当するでしょうか。あるいは「切断の半過去」でしょうか。「絵画的半過去」は通常、一連の複数の動作に対して使われるようですが、ここはVoilàという語で場面(時間設定)が切り替えられたあと、単独で半過去が使われているので、私は段落を締めくくる「切断の半過去」ではないかと思いました(前後の動詞は主に単純過去です)。
いずれにしてもentrer という完了動詞に対して半過去が使われているので、普通の状態や進行を表す用法ではないと思うのですが…Voilàとの関連を含め、用法とニュアンスについてご教示いただけますでしょうか。

なお、岩波文庫(桑原・生島訳)は「いま〜の中へはいってゆく」、
新潮文庫(小林正訳)も「いま〜へはいっていく」と現在形で訳されていますが、これは臨場感を出すための訳し方であって、原文の本来の意味としては「入っていった」となるでしょうか。
長くなってすみません。

*補足:文脈としては、ナポレオンに憧れるジュリアンが僧侶になる決心をするまでの心の軌跡が描かれたあと、ここで小説の本筋に戻って、ジュリアンが「偽善」のために教会に立ち寄るシーンに移ります。


メンテ

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Re: entrait の用法について ( No.1 )
日時: 2021/07/30 22:19
名前: てふママ

bucoさん、こんばんは。

「entrer という完了動詞に対して半過去が使われているので、普通の状態や進行を表す用法ではないと思う」と考えられたそうですが、それはどうでしょう。考えすぎのように思えますが。

絵画的半過去は、おっしゃるように継起する行為について描写するときに用いるのが普通ですから、単独のentrerをどう捉えるかということになりますね。

私はこのentraitは、単に未完了の用法だと思います。完了動詞というのは、ご存知のように、動作が終局に達しなければ行われたとは言えない動詞ですから、半過去だとまだ途上であり、従って「入った」ではなく「入ろうとした(入りつつあった)」(この訳し方は微妙ですが)という意味になると考えます。

日本語訳で現在形にしてあるのは、臨場感を出すためもあるでしょうが、「入っていった」だと、完了と捉えられる懸念があり、未完了のニュアンスを出すために現在形が最も相応しい訳し方だと判断したのではないかと思います。どう訳せば、読者の頭にジュリアンが教会の扉を開けてまさに中に入ろうとしている映像が浮かぶか、考えた末の優れた訳だと感じました。

切断の半過去の場合の特徴として「時間的隔たりや突発性を示す状況補語を発話の冒頭に置く」がありますね。ここのVoilàをそれと等価と考えるのは無理があると思います。
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Re: entrait の用法について ( No.2 )
日時: 2021/07/31 00:02
名前: buco

てふママ様

ご回答ありがとうございました。
なるほど。そうしますと、この entrait は Il mourait de faim.(飢えで死にかけていた)や J'oubliais.(忘れるところだった)のように、未完了や未遂を表す半過去の用法ということですね。
またVoilà は、Voilà le bus.(バスが来た)のように通常の提示や焦点化の用法という理解でよろしいでしょうか。
メンテ
Re: entrait の用法について ( No.3 )
日時: 2021/07/31 13:38
名前: てふママ

半過去のとらえ方、Voilàの用法ともに、ご理解の通りと思います。
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Re: entrait の用法について ( No.4 )
日時: 2021/07/31 14:18
名前: buco

てふママ様

今回もありがとうございました。
半過去はいろいろな用法があってときどき迷いますが、素直に捉えた方がいい場合も多いと実感しました。
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Re: entrait の用法について ( No.5 )
日時: 2021/08/11 03:47
名前: buco

てふママ様

それから、下から2行目の à qui l’on en eût tout au plus donné dix-septもやはり「条件法過去第二形」で、この場合は tout au plus (せいぜい、最大でも)に条件のニュアンスが見られるでしょうか。


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Re: entrait の用法について ( No.6 )
日時: 2021/08/11 14:36
名前: てふママ

はい、eût donné で条件法過去第二形ですね。
でも、tout au plus に条件のニュアンスが含まれているということではなく、donner dix-sept ans が事実とは異なるので、現実的事実ではない仮定的事実とでも言いましょうか、そのこと自体に条件(仮定)が含まれています。
例えば、「そう言ってもよければ(せいぜい17歳に見える)」ですとか、「そう出来るとすれば(せいぜい17歳と想定できる)」というような捉え方ですね。
メンテ
Re: entrait の用法について ( No.7 )
日時: 2021/08/12 00:59
名前: buco

てふママ様

なるほど勉強になりました。
ありがとうございました。
メンテ

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