Re: il y a 時間の表現 (3) ( No.6 ) |
- 日時: 2007/11/16 16:10
- 名前: てふママ
- 眠い頭で考えて、余計な回り道をしてしまいました。ごめんなさい。確定的な用法、などと断言してしまってお恥ずかしいのですが、確定的な用法はde celaなしの場合に限り、ということですね。
うまく伝わっているかどうか自信がないのですが、例えば「10年前に結婚した」ということを話す場合に、「あれからもう10年たっているのだが、私たちは結婚したのです」というと日本語ではよく意味が伝わらないですよね。「(今から)10年前に私たちは結婚したのです」だと明快です。この発想法の差によって、引用文が難しいものに思われるのだと思います。ロシア語の原文がどういう書き方をしているのかはわかりませんが、もしフランス語と同じ論理で書かれているのなら、邦訳は日本語で理解しやすい言い方を採用したのではないかと考えています。 暮津試さんは、たいへん良いところまで正しい解釈をしていらっしゃるわけです。ただ、il s'était souvenuがil y avaitの時点から見て完了であるということを曖昧にしてしまったために、celaの意味がわからなくなってしまったのではないでしょうか。 私がスレッドNo.2に書いた最初の解釈は、ほぼ合っていると思います。ただ、celaを特定しすぎてしまったきらいはあります。やはり「その事」というより「その時点」くらいなのです。
|
Re: il y a 時間の表現 (3) ( No.7 ) |
- 日時: 2007/11/16 21:37
- 名前: 暮津試
- 何度も何度もご免下さい。今度もまた丁寧なご返事をいただきとても感謝しています。「il y avait 〜」の引用箇所が時の副詞句ではなく、ひとつの文をなしているとすれば、de cela がどの時点をその内容としているかは、「il s'etait souvenu 〜」が完了の時制であることから、はじめの僕の解釈は論理的に無理であり、従って cela は「住所を思い出した時点」を指示しているとのご解説、納得的に拝読しました。ですが、ここでまた話を元に戻すようで恐縮ですが、やっぱりこの「il y avait 〜」は、文をなしているのではなく、最初に教えてくださったように状況補語であって、その場合 cela は漠然と現在の状況を指していて、「これよりおよそ6週間前に」と読むのは、de cela が後についている以上原則的に無理なのでしょうか。文としてとるよりも、副詞句として扱ったほうが意味もすんなり理解できるのですが、双方で cela の意味合いが相違しますし、「il y a +期間」のあとに de cela が付いた場合に、それを、時間の経過の開始点ととらずに、「以前」を示す時点として読むのは文法的に許容されるのか、というような疑問を持ちました。というのも、(つづく)
|
Re: il y a 時間の表現 (3) ( No.8 ) |
- 日時: 2007/11/16 21:39
- 名前: 暮津試
- というのも、同じ作品の仏訳の中にほぼ同様な表現があって、それはつぎのようなものです。
C'etait, mon cher Monsieur, il y a cinq semaines de cela, oui...
これは、マルメラードフという気の毒な酔漢が主人公に身の上話をしているとき、自分が職に就いたことを細君がたいへん喜んだことを話したあとで少し間を置いて、上の引用箇所の言葉を発します。この il y a は、 de cela がついている以上、期間の経過を示す文として読まなければならないのでしょうか。そうすると、前に置かれている C'etait は、そこまで言い差しておいて途切れた不完全な言葉と解すのが順当なのでしょうか。そうでなければ、C'etait のあとに接続詞を介さずに il y a がつづいていることから、うしろに de cela をくっつけてはいても、これは時の副詞句として読むことが可能なのでしょうか。文ならば cela は奥さんが狂喜した時点を指すのでしょうし、副詞句なら話者の属する現在の状況を指していることになるかと思います。そして僕には後者のように読むほうがいくらか自然に聞えるのですが、いかがでしょうか。長くなってすみません。これを最後にしますのでご返信よろしくお願いします。
|
Re: il y a 時間の表現 (3) ( No.9 ) |
- 日時: 2007/11/17 11:19
- 名前: てふママ
- おはようございます。少なくとも辞書や文法解説書に載っている限りは、il y aとde celaを組み合わせた場合、celaは「過去の何らかのできごと」を指すとされていますので、無理なように思われます。ただ、il y avait environ six semeines de celaが「そのことからおよそ6週間が経過していた」という意味ではあっても、このフランス語はそもそも大直訳すれば、「そのことから(現在までの間に)6週間があった」ということですから、現在に視点を置いた訳し方をすれば、「それから6週間がたった」となりますし、過去の起きた出来事に視点を置いて訳せば、「今から6週間前に」と訳すことも可能(ただしcelaが「今」を指すわけではない)だということになりますね。
この考え方に沿えば、C'était, mon cher Monsieur, il y a cinq semaines de cela, oui... の場合も、 celaは過去のできごとを指すわけです。C'était il y a cinq semaines de celaと繋げて読むのが自然だと思いますが、そうすると「それは "そのことから今が5週間経た時点である" ことになる時のことだった」という意味ですね。それで日本語として自然に訳せば、「それは、ええ、5週間前のことだったんですけれどね…」となる、という風に解釈しました。(続く)
|
Re: il y a 時間の表現 (3) ( No.10 ) |
- 日時: 2007/11/17 11:23
- 名前: てふママ
- 文なのか副詞句なのかの区別は、日本語に訳すときの目安以外に、分析する意味は実のところあまりないと思います。「il y a+期間を文とする場合にはde celaが必要」という規定はあっても、「de celaがついていたら、必ず文である」とは、規定されていませんしね。例えば、Il y a cinq ans, je l'ai connu.だと「5年前に彼と知り合った」ですね、そしてその場合il y a cinq ansの部分は副詞句だと理解します。そして、[Je l'ai connu dans un bar.] Il y a cinq ans de cela.だと「それから5年たつ」で、文として理解します。けれども、双方とも「過去の出来事から現在の間に5年間がある」という事実には変わりがないわけです。il y a自体に「前に」という意味があるわけではなく、期間をあらわす語を組み合わせると、結果的にそういうニュアンスになるというだけのことですし、il y a cinq ansだけだと起点を示す要素がないので、je l'ai connuが起点を示すことになり、関連が密接なので副詞句ととるほうが機能上の説明として明快だ、ということなのだと私は考えました。
疑問がどんどん広がるのは当然のことと思いますので、ご遠慮にはおよびません。納得できない箇所がでてくれば、いくらでもご相談ください。珍しく、骨のあるご相談ですので、むしろ楽しんでおります(笑)
|
Re: il y a 時間の表現 (3) ( No.11 ) |
- 日時: 2007/11/19 00:54
- 名前: 暮津試
- 末尾のご感懐に力を得て、今いちどねばらせて下さい。少し質問の角度を変えてみます。il y avait environ six semeines de cela, il s'etait souvenu de cette adresse. という文章が、「およそ6週間前に彼はその住所を思い出した」という意味なら、なぜ、il y avait environ six semeines, il s'etait souvenu de cette adresse. と記述せずに de cela を付けるのか、de cela を付けることによってどんな効果が文意に加わるのでしょうか。そして、もうひとつ、これは元の木阿弥みたいな質問で、僕自身途中で疑問が氷解したような気がしたのですけれど、また分からなくなってしまいましたので、切りがありませんけれど、もういちど訊かせて下さい。つまり、「il y +期間」に de cela が付いて期間の開始点を示す場合、これは文を成し、経過期間を表すものとしますと、il y avait environ six semeines de cela は、cela以来およそ6週間がたったという意味になりますが、さて、後続するil s'etait souvenu de cette adresse は確かに、(その時点ではすでに)彼はその住所を思い出していたという完了の形態ですが、それが完了であるということによってなぜ、cela の示す開始点が学生Pに住所を聞いた時点であるという可能性を排除するのでしょうか。(つづく)
|
Re: il y a 時間の表現 (3) ( No.12 ) |
- 日時: 2007/11/19 00:55
- 名前: 暮津試
- 逐語的に直訳すると、「それ(学生Pに住所を聞いた時点)からおよそ6週間たっていたが、彼はその住所を思い出していた」という解釈は、物語の時間軸と齟齬をきたしはしますけれど、作者がちょっとおっちょこちょいだったという制作上の手落ちまで計算に入れた場合、少なくとも文法的にはそのように読めてしまう可能性というのはないのでしょうか。「il y +期間」に付く de cela が「それより以前に」という意味ではなく、「それ以来・その時から」という期間の開始点を示す補語であるということがおおむね確定的であるならば、それ(住所を聞いた時点)から6週間たった時にすでにもう老婆の住所を思い出していたというのは、聞いた後の期間のうちですから、論理的にはあり得ると思うのですが、いかがでしょうか。cela がまさに住所を思い出した時点であるとする読み方は、きっとそれが正解に違いないに決まっているのですけれど、なんだか、どうもすっと会得できなくて、それならどうしてわざわざ de cela なんか付け足したりするんだろう、付けなくったって同じ文意になるのに、と、またほんとうに元の木阿弥のていたらくです。結局、フランス語をフランス語として受け取る熟練がなければ、書いてあることがなかなか書いてある通りに読めないということなのかしら、とも思えます。ともかく、こんかいの質問の要諦は、およそ「il y +期間」の用法は確定しましたが、開始点を示す cela の内容の特定には、この場合、作者の不注意まで可能性として許容するなら(これはほとんど反則ですけれど)、恣意性が認められるのじゃないか、恣意性があるとすれば、僕の最初の解釈は、変な言い方ですけれど、不正解なりに、または誤読なりに、文法上成立してしまうのではないか、というものです。以上、最後の最後のつもりで質問を提出させていただきます。どうかよろしくお願いいたします。
|
Re: il y a 時間の表現 (3) ( No.13 ) |
- 日時: 2007/11/20 00:20
- 名前: てふママ
- >それが完了であるということによってなぜ、cela の示す開始点が学生Pに住所を聞いた時点であるという可能性を排除するのでしょうか。
このことについては、直接の因果関係があるわけではなく、自分でもなぜそういう書き方をしたか、後で読んでみて論理が通っていないと思いましたので、お忘れください!(済みません) il y avait environ six semaines de cela とil y avait environ six semainesを較べた場合、「(物語上の)今と、思い出した時点のあいだにはおよそ6週間があった」という事実は共通ですが、目指すニュアンスには違いがあると思います。前者は、物語上の今はどういう時点なのか、ということがポイントですし、後者は、物語上の過去において、思い出すという出来事があった、ということがポイントになっていると考えられます。別の言い方をすれば、前者においては、il y avait environ six semaines de celaのほうがメイン(もしくは、il s'était souvenu de cette adresseと等価)であるのに対し、後者は、il s'était souvenu de cette adresse.のほうがメインということにもなりましょう。以前、独立した文か副詞句かの違いは、さほど重要ではないと書きましたが、どの部分がメインかを知るためには、確かにこれは判断基準のひとつとなるでしょう。なぜ仏訳者が前者を採用しているかは、コンテクストに一番合致する書き方をするため、あるいは訳し方の好みの問題ということになりそうです。もしかすると、il s'était souvenu de cette adresse.以降の文章に、むしろ手がかりがあるのかも知れません。(続く)
|
Re: il y a 時間の表現 (3) ( No.14 ) |
- 日時: 2007/11/20 00:25
- 名前: てふママ
- celaが文法的に「学生Pに住所を聞いた時点」を指す可能性があるかどうかについては、これは文法規則の範疇ではないように思います。私の読みが絶対的に正しいとは言いませんが、フランス語を頭から読み進んでいった場合に、celaが「学生Pに住所を聞いた時点」を指すには、物理的に距離が遠いと思いますし、No.2で暮津試さんが、「longtemps」などがひびいて来て、といみじくもおっしゃっていますが、「学生Pに住所を聞いた時点」からは時間が経過してしまっていることが読み取れますので尚更縁遠く感じます。そして、もうひとつは、Orの存在です。最初のL'hiverから、tant bien que mal.までは、ひとつの流れに沿った文章ですが、Orがあることによって、その流れが断ち切られている印象を受けます。オーバーに言えば、Or以降、物語が新しい展開になってくるように見えます。ただ、これもあくまで、時間軸に沿っているかどうかという前提で考え得る解釈に過ぎません。物語上の現在が7月であるということを知らなかったら、私もcelaが「学生Pに住所を聞いた時点」だと思ってしまう可能性はあります。
il y avait... de celaを使う文章は、celaのあらわす時点が、それに先行している例を多く見かけます。確かに、私も、Or, il s'était souvenu de cette adresse. Il y avait environ six semaines de cela.の順だとわかりやすいのに、と思います。そういう意味から、celaの時点を、先行している文中に求めたくなる気持ちはよくわかります。引用してくださって文章のみを読んだ場合、果たして、フランス人が読んでも、誰もが即座にcelaは住所を思い出した時点だと理解するかどうかは、実際のところわかりません。
|
Re: il y a 時間の表現 (3) ( No.15 ) |
- 日時: 2007/11/20 21:36
- 名前: 暮津試
- 今度こそよく理解できたように思えます。de cela を添える場合と添えない場合とのニュアンスの違いを伺って、ぱっと視界が晴れたような気がいたしました。そのニュアンスをじゅうぶんに読み込んだうえでもう一度テクストにあたってみますと、まったくご指摘のとおり、il y avait 〜 に de cela を付けることにより、引用箇所に後続する文章との連絡が円滑になった(というよりも、そのことに対して僕の理解がはじめて届いた)のが分かります。そして、cela の内容を特定することについても、お話くださったようにそこにはどうしてもいくぶんかの相対性が含まれるとすれば、だからこそなおのこと、「代名詞が曖昧に思えるときに、その指示内容を特定する原則は、一にも二にも文脈」であることをはっきりと銘記した次第です。
このたびこんなにも懇切に教えて下さいました事、ほんとうに感謝しております。僕としてはとても勉強になりました。そして、また仏語にまつわる別のさまざまな問題について教えを乞い、もっと勉強できればと、希望いたします。よろしかったら次の機会にもお付き合いください。今後ともよろしくお願いいたします。
|