笑えるフランス語

街やWebで見かけた困ったフランス語をご紹介
笑えることが少なくなることを願って…

悩みどころ 2016年09月13日(火)

  【RITUEL par Christophe Vasseur(リチュエル パー クリストフ・ヴァスール)】

お寄せいただいた情報である。最近話題の高級フランスパン屋の名前。間違いと言えるような言えないような、私なども常に困る問題をはらんだ店名なのだ。

要するに、問題はparの発音。これは発音記号で記すと[par]となり、最期の文字"r"まで発音するのが正しい。「パー」で終わりではないのだ。ただフランス語の[r]の音は独特で、特に語末にあって読む場合(語末の"r"は読まない単語もある)、日本語のカタカナ表記の「ル」という音には確かに聞こえない。「ハ」のような「フ」のような、息が抜けたような音になる。

さらに、1単語1単語区切って読むのでなければ、ほとんど"r"の音は聞こえないレベルになる。耳だけで聞けば「パー」と表記するのも無理ないとは思う。実際「パー」としか発音しなくても、ちゃんと通じる。

ここからは日本語カタカナ表記の限界の問題となる。母音の数も子音の数も少ない日本語では、フランス語のみならず、世界の言語で使われている音をすべて再現するのは結局不可能なのだ。近似値で表すしかない。以前も書いたことがあるかも知れないが、少なくとも"v"と"b"との違いは「ヴ」と「ブ」で書き分けることができる。"r"と"l"も何とかならないものかと痛切に思う。読み方に平仮名表記を併用している『ディコ仏和辞典』では、parは「パる」と表記されている。現時点ではこれがせいぜいだ。

カタカナ店名に平仮名を混ぜるのは現実的ではないので、「パール」あるいは「パル」とするか「パー」とするかということになる。私としては、こういう表記に困る単語は店名には使わないということを推奨したい。だいたい「リチュエル パー クリストフ・ヴァスール」なんて長い名前を誰が覚えてくれるのか?

http://rituel.jp/
 

どういう設定? 2016年04月22日(金)

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【LE AMOUR ETERNEL ル・アモール・エテルネル】

フジテレビの新ドラマ「僕のヤバイ妻」を見ていたら、ストーリーに大きくかかわるワインが登場した。台詞には解説はなかったけれど、ラベルを良く見るとフランスと書いてあるようだから、フランスワインなのだろう。

でも、ラベルを見て目が点になった。"LE AMOUR"は非常にカッコ悪い初歩的な文法間違い。"L'AMOUR"とならなくてはいけない。

また、俳優さんが「ル・アモール…」と発音していたが、AMOUR単独では、発音は「アムール」だし、L'AMOUR で「ラムール」と読む。実在のフランスワインの名称は、設定が設定だけに使えなかったのだろうが、この名前はいくらなんでもひどすぎる。サスペンスドラマが一瞬にして滑稽に見えてきてしまった。

ちょっとフランス語のわかる人に相談すれば、何ということはないのに、それを怠るから、雑な作りのドラマだと思われてしまうよ。
 

嫌ならやらなければよいのだが… 2016年02月24日(水)

  【C'est magnifique ! セ・マグニフィーク!】

スマホのゲームアプリで、Cookie Jamというものがある。日本ではテレビCMも作られた人気ゲームで、音声にフランス語が使われている。もともと海外(英語圏)で開発されたものを日本用にローカライズしたというから、英語圏の人には違和感がないのだろう。

クッキーを揃えて消してゆく過程で、消し方のグレードに合わせて、"C'est bon !"(セ・ボン)「うまいね!」、"Oh là, là !"(オ、ララー!)「おやおや!」という言葉が流れる。その中に"C'est magnifique !"「すごい!」があり、これを男性の声は「セ・マグニフィーク!」と発音しているのだ。正しくは「セ・マニフィーク!」なのに、はっきりと「グ」の音が発音されていて、これが甚だ気持ち悪いのだ。フランス語では gniのスペルは「グニ」ではなく「ニ」である。聞いた限りでは、使われている音声の吹き込み者は英語ネイティヴの人だと思う。

せっかく面白いゲームを作ってフランス語を使うなら、音声もフランス語ネイティヴの人を使って欲しいものだ。英語圏の人は、ちょっとフランス語を使っていてカッコイイ!という程度に受け取るのだろうが、こういう初心者の発音ミスのようなものを毎回聞かされるのはかなわない。

https://itunes.apple.com/jp/app/kukkijamu/id727296976?mt=8
 

叶わなそうだ… 2015年10月16日(金)

  【à tes souhaits ! アテスウェイ―願い事が叶いますように!】

今東京でモンブランが1番美味しい店だそうである。友だちのFacebookで紹介されていたので、へえ、変わった店の名前だなと思っていたが、まさかフランス語だと思わなかった。店のウェブサイトを見てびっくり。à tes souhaits !とフランス語が書かれているではないか。例によって発音の間違い。souhaitsは「スウェ」であって、決して「スウェイ」ではない。なんだ、ちょっとのことじゃないかと思われるかも知れないが、これは音としては大違い。aiを「ェイ」と読むのは、ひどい英語訛りでカッコ悪いことおびただしいのだ。なぜ「イ」を入れてしまったのだろう?「アテスウェ」か「アテスエ」くらいに出来なかったものだろうか。

サイトの説明にあるように、À tes souhaits ! というのは、クシャミをした人に言う決まり文句で、英語のBless you! に当たる。つまり、元々は「願いが叶いますように」の意味だが、合いの手のようなもので、実際には大したニュアンスはない。

http://www.atessouhaits.co.jp/chef/index.html
 

ウチの子には買わないぞ! 2013年11月04日(月)

  【BonBon Copine ボンボン コピーヌ】

お知らせ頂いた情報である。結構有名な方がプロデュースなさったペット用品ブランド名。この方のブログには「Bonはボンジュールとかに使われる“ボン”で 良いとか素敵といった意味!Copineコピーヌは仲間って意味!」と書かれていて、はっきりとフランス語だとの説明がある。

言葉の説明としては間違ってはいないが、問題は組み合わせだ。copineは女性の「友だち、仲間」の意味であり、文法的には女性名詞。一方、bonは「良い、すぐれた」といった意味の形容詞で、このスペルだと男性形なのである。だから、bonがcopineを形容することは決してあり得ない。ちゃんと形容詞を女性形にするなら、bonne copine(ボンヌ コピーヌ)としなければならない。しかし、これで繰り返し言葉にすると「ボンヌボンヌ コピーヌ」となり、いかにも語呂が悪い。おそらく、言葉の響きだけで文法のことなど全く無視してつけられた名前なのだろう。

またbonには、「よし!」といった間投詞としての用法もある。それならば変化はせずbonのままだが、そうするとcopineの方が浮いてしまい、意味が繋がらなくなる。いずれにせよ、意味不明のブランド名なのである。

それともう一点、ブランドのロゴは«Bon Bon Copine»となっているが、プロデユーサーさんのブログや、HPのあちこちに«BonBon Copine»と、Bonを繋げて書いてある箇所が多々見られる。まあBの文字が2箇所とも大文字になっているので、間違われることは少ないだろうが、実際に«bonbon»というスペルの単語もあるのだ。これは「ボンボン」つまり「キャンディー」の意味なので、ますますもって可笑しなことになる。

ウチのワンコに何かを買って、このロゴがついていたら、本当に恥ずかしいので、絶対に買わない!

http://www.bonbon-copine.com/(ショップのサイト)
http://ameblo.jp/bonbon-rina/entry-11354866342.html(プロデューサーさんのブログ)
 

耳障りだ! 2013年08月29日(木)

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【Numéro TOKYO ヌメロ・トウキョウ】

ファッション雑誌のタイトルである。耳だけでこの名前を聞いたときに、「ヌメロ」という音からスペイン語のnúmero(uの上に記号)かなと思っていて、実物を見たらスペルはnuméro(eの上に記号)だ!

さらに調べてみると、この雑誌はフランスの雑誌«Numéro»の日本版だというではないか。つまりは「ヌメロ」という発音になるスペイン語やポルトガル語やイタリア語のスペルミスではないのだ。

しかしフランス語ならは決して「ヌメロ」などと発音はしない。「ニュメロ」である。

これは「ュ」という音が日本人には馴染まないから、近い音にしようとしたに違いない。「デジャヴュ」が正しいのに、英語を経て「デジャヴ」になってしまったり、「ビュッフェ」が「ブッフェ」になるのと同じ現象だと言える。

でも、フランス語では「ウ」と「ュ」はまったく異なる音なので、やっぱり「ヌメロ」は気持ち悪くて容認できない。
 

元が知りたい! 2013年06月25日(火)

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【Le bonheur est née une fille !】

神田神保町を歩いていて、とある店の道路に面したガラスにこの文が書かれているのを見つけた。ほかにも数種類のフランス語の短文が書かれている。店の名前もフランス語なので、フランスらしい雰囲気をかもし出そうと、文をちりばめたものと見える。

だが、どう考えてもこの文は意味不明である。文法的に形をなしていないのだ。«Le bonheur»は「幸せ」という意味。«est née»は「生まれた」という動詞の過去形だが、このスペルになるには、主語が女性名詞でなくてはならない。だが«Le bonheur»は男性名詞だ。«une fille»は「女の子」の意味なので、前半と繋がらない。百歩譲って(千歩くらい譲らないと不可能だが)«une fille»が主語と考えても、今度は«le bonheur»がどこにも繋がらなくなってしまう。

散々頭をひねった結果、どうも「女の子に生まれた幸せ」とか何とかいう日本語を、機械翻訳にかけたのではないかと推測し、様々な日仏オンライン翻訳で試してみたが、ついにわかった!「幸せは女の子に生まれたこと」という日本語ををGoogle翻訳でフランス語にしてみたところ、冒頭の文を吐き出してくれた。

繰り返すが、これはフランス文としては成立していない。機械翻訳が正しいと思ってもらっては困るし、それを鵜呑みにして、大切な店のディスプレイに使うのは、迂闊としか言いようがない。
 

点で目が点 2013年04月14日(日)

  【ペットサロン ア・ムール 愛情(ア・ムール)】

バスに乗っていて外を眺めていたときに、目に飛び込んで来た店名。「アムール」はよくある名前だから「ア・ムール」としたのだろうか? でも、あくまで「愛情」のamourは1単語であり、「アムール」と続けて書く以外に書き方はない。どう考えても中点を打つ必然性も論理性もない。単にちょっと変わった書き方にしようと思ったのかも知れないが、まったく納得できない。
「南仏プロバンス風」をテーマに表現したお店だそうだから、フランス語もちゃんとしてほしいものだ。

http://nttbj.itp.ne.jp/0484826025/index.html
 

どうにも我慢ができない 2012年12月26日(水)

  【Les Misérables レ・ミゼラブル】

このところ、テレビをちょっとかけていれば必ず1日数回は見かける世界的大ヒットとなったミュージカル映画の予告篇。この予告篇の最後に、「レ・ミゼラブル」というタイトルのナレーションが流れるが、それを耳にするたびに気分が悪くなる。厳密に言えば、笑えるフランス語ではない。

カタカナ表記としては「レ・ミゼラブル」は間違ってはいないが、「ミ」にアクセントを置いたカタカタ読みと、フランス語の実際の発音はまったく異なるのだ。

原作が、フランス19世紀の文豪ヴィクトル・ユゴーの小説だとはいえ、アメリカ・ブロードウェイ・ミュージカルを映画化したものであるから、英語の発音に近いのは仕方ないのとも言える。文句は日本に言うのではなく、フランス語の発音を英語式に変えてしまったアメリカに言うべきかも知れない。

フランス語の発音に従えば、「レ・ミゼラーブル」と「ラ」の部分がわずかに長いのだ。この発音で昔から親しんできたタイトルだから、「レ・ミゼラブル」と聞くと、本当にがっかりしてしまう。

元々ミュージカルは好きではないし、英語で演じられるLes Misérablesなど観たくないので、おそらくいくら絶賛されても観に行かないだろう。
 

アパレル業界、しっかりせんかい! 2012年08月21日(火)

  【LANVIN en bleu ランバン オン ブルー】
【La TOTALITÉ ラ トータリテ】
【LE CIEL BLEU ル シェルブルー】
【RIVE DROITE リヴドロワ】

数日前に、ある百貨店から来たニューブランドやリニューアルブランドのお知らせチラシ。一読しただけで、なんとツッコみたいブランド名がこれだけ出てきた。

«LANVIN en bleu»は、enを「オン」と読ませている。これは以前にも確か書いたことだと思うが、フランス語のenというつづり字の発音は、日本人が聞くと「オン」にかなり近く聞こえる。それでも、これはあくまで「アン」とすべきだと私は思う。日本人が普通に「アン」と発音するつもりで、舌を奥のほうに引っ込めて発音すると、この音になる。口はある程度開きがある。「オン」とカタカナを振るつづり字はon, omであり、口はほとんどすぼめているので、相当こもった音だ。聞こえる音重視という考え方もわからないではないが、元々暗い「ア」を鼻に抜いた音なので、やはり表記は「アン」のほうがよいと考える。カタカナ書きを最初に見た私は、英語のonを使っているのかと思ってしまった。

«La TOTALITÉ»は、「ラ トータリテ」ではアクセントの位置が違う。フランス語の単語は最終母音にアクセントがあるので、totalitéならば最後の「テ」の音にアクセントがあり、そこがやや長めに発音される。だから「トー」と伸ばすのは変なのだ。「ラ トタリテ」とすべきだ。カタカナ語で「トータル」という言葉が日本人にはなじみ深いので、そこからこの読み方が捏造されたのだろう。

«LE CIEL BLEU»は、お馴染みの間違い。cielの読み方は「スィエル/シエル」であって、小さい「ェ」を使った「シェル」とはならない。

«RIVE DROITE»は、明らかな発音間違い。droiteの読み方は「ドロワット」であって、「ドロワ」ではない。「ドロワ」という読みになるのはdroitというスペルの時だ。

アパレル業界では、本当にフランス語のブランド名がゴロゴロしており、それだけ間違いも多い。自分の着ている服などに間違ったフランス語がついていたら、気持ちが悪くて嫌だが、たいていタグにはフリガナまでついていないので、気づかないことも多い。
 


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